世界のビジネスと人権(2)-フランス企業注意義務法-

目次

第1 はじめに

 フランスでは、2017年3月27日、「親会社と発注企業の注意義務に関する法律」(以下、「フランス企業注意義務法」)が成立しました。

 同法は、広範な企業に規制を課す人権デューデリジェンス法制であり、画期的な法制として期待されています(問題点は第3で後述)。

 同法の目的は、多国籍企業である親会社がその(海外)子会社およびサプライチェーンを通じて及ぼす人権・環境に対する負の影響に注目し、その回避をすることにあります。

第2 フランス企業注意義務法の内容

1 対象企業

 同法による規制の対象となる企業は以下の通りです。

①所在地がフランス領土にあり、自社及び直接・間接子会社の雇用者数が5,000人以上の全ての会社
②所在地がフランス領土若しくは海外にあり、自社及び直接・間接子会社の雇用者数が1万人以上の全ての会社

※上記囲み内の記載は法律原文の和訳。JETROのWEBサイトより引用。以下同じ。

2 義務の内容

 上記1の「対象企業」は、監視計画の作成・実施及びその状況を年次報告書で公開することが義務付けられます。

 では、「誰の行為による」「どのようなリスクについて」「どのような方法で」監視・実行することが義務付けられるのかを順に見ていきましょう。

ア 「誰の行為による」

「自社及び商法第L. 233-16条IIに基づく直接・間接従属会社の事業、並びに商取引関係を結んでいる下請業者又は供給業者がその商取引関係に伴う活動により・・・」

 ここでのポイントは、自社又は子会社の行為のみでなく、サプライチェーン上の他社の行為についても監視する義務を負う点です。

イ 「どのようなリスクについて」

人権、基本的自由、関係者の健康・安全、環境に対する深刻な損害を及ぼすリスク

ウ 「どのような方法で」

  •  ①リスクマッピングの作成
  •  ②①に沿って、子会社及びサプライチェーン上の会社の情況に対し定期的な評価
  •  ③発見されたリスクに対する緩和及び損害防止に向けた措置
  •  ④リスクの存在・発生に関する通報制度の整備
  •  ⑤実施する措置の追跡調査及び措置の有効性の評価

 以上の方法で監視を行い、その実施状況を年次報告書で公開することが義務付けられます。

3 罰則

 元々は、以下の罰則が定められていましたが、憲法評議会により内容が不明確であるため憲法に適合しないと宣言されました。現在では罰則規定はありません。

規定された義務の履行を命じられた会社が、命令日から数えて3カ月以内にその義務を果たさない場合、管轄裁判所は、当該問題に利害関係を有する何人の申立てに応じて、当該会社に義務の履行を厳命し、必要な場合は罰金を科すことができる。

4 損害賠償責任

 上記2の義務に違反した企業の民事損害賠償責任が以下の通り定められています。

商法第L. 225-102-4条で定められた義務違反については、違反者が責任を負い、履行すべき義務の実施により回避できたであろう損害の補償をする。

第3 フランス企業注意義務法の不完全性

 フランス企業注意義務法の制定後2年間の施行状況の評価をとりまとめた報告書が2020年2月21日に公表されました。

 そこで以下のような問題点が明らかとなっています。

・法的義務がある265社のうち、過去3年間に監視計画を発表していない企業は72社にのぼる
・調査対象となった企業のうち5%が、リスクマッピングの導入とモニタリングの段階にとどまっている
・企業が公表する取り組み状況や方針のほとんどが簡潔なものにすぎず具体性にかけること
・(年次報告書を提出するのみにとどまり)企業が積極的に情報公開をしていないこと
・外部からの批判を受けないよう曖昧な表現になっていること

第4 人権デューデリジェンス法制定の効能

 フランス企業注意義務法は罰則が規定されず、また、規定内容が抽象的・概括的であるため、対象企業に対する強制力の点では不完全な法制となっています。

 しかし、同法の成立後、NGOなどにより、同法の注意義務違反を理由とする損害賠償を求める訴訟(対total訴訟対Casino訴訟)が提起されるなど、同法の規定を足掛かりにした市民社会からのプレッシャーは高まっています。フランス企業注意義務法のような人権デューデリジェンス法制が日本でも制定されることが国際社会からの要請であり、現在日本においても法制整備の検討が進められております。

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